さなぎ長文

けいば 妄言

夕闇に吹け 菱柄の北風

f:id:agesubablog:20200405222025j:plain


夜と昼の境目は大井競馬場に落ちている。すべての色彩が感応し合い、そしては青い暗さに満たされていくのだ。

 

f:id:agesubablog:20200405222052j:plain


 その夕闇の中で、はにかんで、いろんな表情をして、それで快活にしゃべって、けらけらして、ああ、御神本さんが出ないレースは、この人を撮ればいいんだと思っていたジョッキーが居た。

 私が競馬にはまりはじめたとき、というのも競馬新聞をみてうんうん唸り始めたときではなく、たとえばパドックを周回するサラブレッドや、輪乗りの時のジョッキーに長いレンズを(その時偶然パークのダンサーを追うのをやめた妹にカメラをレンズ付きで譲ってもらったのだ、その対価としていくばくかのitune Cardをおわたしし、その貨幣は無事に妹のスマホの中で宝具2の始皇帝になった)向け始めた時の話だけれど、それは秋が深まる大井競馬のころであった。当然その時私は重賞に出かける体力はなく、平場をのそのそ撮り、入場料と自分が決めた額を御神本騎手の応援馬券に分配していたりした。
 
 御神本さんは そう毎レースのるわけではない、でも私にはそれがちょうど良かったかもしれない。現にたとえば府中で9レースほど福永さんが乗る場合、私はいつご飯を食べればいいのだろうか。決め打ちされたクライマックスのような御神本騎手の騎乗を待つのは、ある種のたのしみをつくりつつ、私に余裕をもたらしてくれた。

 御神本さんが出なければ誰を撮ればいいのですか?

 私は晩秋の中、あまりにもぎらぎら光る菱柄の勝負服にピントを合わせて居た。
 彼はだいたい喋って居た、挨拶の時は隣の騎手と、輪乗りのときは厩舎員さんと、返しのときは近くの騎手と、もしかして馬とも喋って居たのかもしれない。喋らない時はくしゃみするか咳き込んで居た。まるでその細い体に風邪を、いや風を封印しているかのようにすべてが辛そうで全てが生き生きして居た。私はカメラを構えて何枚か取って、ファインダー越しに彼自身が菱柄の風のように過ぎ去っていくのをただただ見て居た。例えれば彼はドラスティックな夕闇の中に吹きすさぶ一陣の風であり非常ないみじい生命であったのだ。

 彼の名は、瀧川寿希也と言った。

f:id:agesubablog:20200405222106j:plain

 喘息持ちの若者が怪気炎を上げて鞍上にいたのだ。美しく鞍上に存在する御神本さんを夜の日本海と例えるならば、彼はせわしなく吹きすさぶ工場地帯の北風であった。でもずっと咳き込んでいた。咳き込んでくしゃみして、わらってかしゃかしゃ乗って、アークヴィグラスはローレル賞を一位で勝ってにこにこしていた。わたしはホウショウレイル を応援してたんだよ?そのときは周りに誰も競馬ファンはいなかったし、部屋の隅っこでレース結果を見るしかなかったんだけれどね。

 騎手の評価はいろいろあるし、彼に否定的な意見は現役時代からわんさかでていた。それを見てわたしは「それもそうだよねえ」と思ったりしていた。でもなんだか あの切れた肥後守のような、ラディカルな曲線を描く笑顔や、それこそ冬の風にあてられたりんごみたいなほっぺを否定しろと言ったら、私はジョッキーの外見をほめるのがだいすきだから(それは第一に御神本さんの美しい日本海のような顔立ちと瞳とか、中央の芝を全て集めたような優しい福永さんの目線とか、金沢の白身魚のあまみみたいな素敵な吉原さんのスマイルとか・・・)
 そんなことはできない 情緒的な外見をもつジョッキーを否定はできなかったのだ。

f:id:agesubablog:20200405222059j:plain

 正月と平日の境目を川崎競馬で見つけたら案の定ぺちゃくちゃしゃべるジョッキーさんはにへらとしながら乗っていた。風邪引かないといいなあと案じていたらインフルエンザに3回かかっていた。ありがとう瀧川さん。あなたを例に出して患者さんにうがい手洗いの必要性を説けています。とりあえずいろいろあるけれど、ずっと若手の一人として乗ってくれているのかとおもっていた。クイーンカップにアークヴィグラス女史と出るとききなぜかお腹を壊しながら府中に馳せ参じて(これは福永さんがでるからです)気温3度でカメラを構えていたりした、中央の重賞でもおんなじような表情をしてしゃべりたそうな顔をしていた。ちなみに払い戻しは12Rに勝利した福永騎手のサインでした。やったぜ。

 彼は

 彼は急に出馬表から名を消した。誰もが当然と言うネットの風を見ながら、私だって了解できるところは多かったのだけれど なぜかそれはビジュアル的には虚無を覚えていたのだ。

 それは そのあとはまあみなさんの意見の通りです。私だっていろいろ言いたいことはありますし、いまとての状況を私に語れと言われたら それは それは私は馬券としては超初心者、何も言えません。お金が関わることですし 

 でもなんだか これはわたしはまったく正義ないけんじゃないけど、擁護だとか思われてもあれだけれど、袋叩きにすることはないじゃないと思うのであって、でもわたしはこういう文面でいうしかなくて、じゃあなんでそんなことをいうかというと。一般には発生しない事象ですが、感情と書き込みが爆発していろいろなほうこうにいくのはまあよくあることなんです。たぶん。言語と非言語の間には衒学的な緩衝ががあるかもしれないしないかもしれないのです。ここでいえるのはそれまでです それよりも言いたいのは

 あの菱柄がまたダートで、落ち着いた北風になって見られたらなあって 思ってしまうのです。父親にもなられたそうですね。

f:id:agesubablog:20200405222153j:plain


 

 お風邪はひかないようにしてください。「お風邪はひかないようにしてください」・・・わたしはいみじい一介の競馬ファンですゆえ、全てのジョッキーと、ジョッキーだった方々にこの言葉に送りつつ、この文を終わらせていただきます。